:
1

炭治郎 :
ここは……?

蜜璃 :
え、なにここ? どこどこ?

あっ、もしかしてこれ夢?やだもう、私、変な場所で寝てたらどうしよう。

行冥 :
このぬるい空気の感触は夢ではない……どこぞの鬼の[血鬼術:けっきじゅつ]、か?

しのぶ :
ちょっと待ってください。……この状況に覚えがあります。

行冥 :
なに?

義勇 :
俺もだ。また来たのかもしれない。――炭治郎。

炭治郎 :
ええ。前とは違う場所ですけど……あの世界の匂いです!

行冥 :
……説明をしてもらおう。

炭治郎 :
説明……となると難しいんですが……

ここはたぶん、俺たちが生きている場所とは別の世界だと思います。

蜜璃 :
別世界?

炭治郎 :
世界そのものが違うんです。俺も最初は信じられませんでしたけど。

しのぶ :
私たちが普段、認識している世界の外側、と考えた方がいいかもしれません。

義勇 :
理外の世界だ。そうとしか言えない。

行冥 :
……お前たちが操られている様子もなし。突拍子もない話だが、柱が二人声を揃えるのならば……

炭治郎 :
だけど、どうしてここにいるのかは……

なんだ? なにかが焦げる匂い……

義勇 :
あれか。

蜜璃 :
大変! 山火事っ?!

炭治郎 :
……いえ。古い家が焦げる匂い……それと……

しのぶ :
それと? なんですか?

炭治郎 :
――鬼に似た匂いもします。

行冥 :
行くぞ。

炭治郎 :
あ、待ってください!この世界の鬼は……

蜜璃 :
じゃあこの世界の鬼って、人を喰べたりしないの?

炭治郎 :
ええ。悪い鬼もいるんですが……

義勇 :
善良な鬼もいる。ただ鬼の性格に関わらず人は喰わないようだ。

行冥 :
にわかに信じがたし。いずれにせよ……

??? :
なんにせよ、行きゃあわかるだろうがよォ!

行冥 :
不死川か。

実弥 :
――あんたもいたのか。悲鳴嶼さん。

行冥 :
こちらは状況を冨岡らから聞いた。お前たちは把握できているか?

小芭内 :
こっちは宇髄から聞いた。だがこれが血鬼術による幻でないとも言い切れない。俺は確かめるまで信じない。

天元 :
お前はどこに行っても地味に変わらねえな。

実弥 :
だが俺も同じだァ。簡単には信じられねェ。

無一郎 :
炭治郎、この世界へは宇髄さんたちと来た一回だけ?

炭治郎 :
ううん、二回かな。どっちも問題に巻き込まれる感じだった。もしかしたら今回も鬼がなにか……

実弥 :
しゃらくせェ!鬼なんかどこ行っても厄介モンに決まってるぜェ!

行冥 :
行けばわかることだ……急ぐぞ。

 :
2

??? :
俺の名はホーリー。ホーリー・ザ・ナイト……漆黒の[灼腕:しゃくわん]を持つ獣……

セイヤ :
呑まれていく……我が灼腕が夜よりも暗き闇に……

おっちゃん :
ん、セイヤか?

セイヤ :
お、おっちゃん……!

おっちゃん :
おお、やっと着いたのか。遅かったな、お前。

セイヤ :
遅かったなじゃねえよ。なにが『村は王都のすぐ近く』だよ。

おっちゃん :
歩いて三日くらいだったろ?

セイヤ :
五日歩いたわ! たとえ三日でもすぐ近くとは言わねえ!

おっちゃん :
はっはっは。まあ無事っぽいし気にすんなって。今日はウチに泊まってけよ。

セイヤ :
え、いいの? 助かる。宿屋も見当たらねえし、今日も野宿の覚悟だったぜ。

若者 :
あれ。おっちゃんにお客さん?こんな村に珍しいね。

おっちゃん :
おう。前に王都のアイドルライブをいっしょに観たヤツでよ。

村の遺跡のこと話したら、絶対に見たいって言うもんでな。ナントカのアレが疼くんだと。

若者 :
ナントカのアレ?

セイヤ :
疼く! 漆黒のこの灼腕が……悠久の眠りより目覚めしルーンに共鳴している……

若者 :
…………

……まあロマンのある遺跡ではあるよね。

セイヤ :
だろ?<[AC0D0D]キドラ村の英雄[FFFFFF]>がマジかもしれないんだからさ。めっちゃかっけーじゃん。

若者 :
あの話はあくまでおとぎ話だけどね。実際のキドラはただ人と戦争してただけらしいし。

おっちゃん :
おお、<[AC0D0D]英雄鬼[FFFFFF]>のキドラ、実は狂暴だったらしいな。この国の鬼嫌いもそこからとかナントカ……

セイヤ :
いいじゃねえか。俺はカッケー方が好きなんだよ。

おっちゃん :
でもよ、俺にはよくわからんが、遺跡で見つかったルーンってなあ、そんな大したモンなのかい?

若者 :
まあね。ルーンが本物なら、伝承が史実だった可能性が出るから。

おっちゃん :
いつわかるんだ?

若者 :
ギルドの調査隊が来てから。伝承で鬼が使ってたルーンかどうかの結果待ちみたい。珍しいルーンなのは確実らしいよ。

セイヤ :
本物に決まってるって。悪い王様を滅ぼした<[AC0D0D]英雄鬼[FFFFFF]>!伝説がまさかマジとはな~。

――『我が名はキドラ。屍に座する忌まわしき人の王に紅蓮の崩壊を与えんッ!』

若者 :
ははっ。あったね、そのセリフ……

おっちゃん :
な、なんだなんだ? 遺跡の方?

若者 :
火の手が……?まさか君、本当に……

セイヤ :
俺じゃねえって。けど、ヤバいぜ、これ。誰か巻き込まれたかもしれねえ!

おいおい、なんだよこれ……どうなってんだ?

村娘 :
きゃあああああ!

ひい、い……助けて……

鬼 :
――――

村娘 :
い、い、い……

セイヤ :
だりゃあああああ!

(手ごたえがねえ。しかも……)

(なんて数だ。同じ鬼が……)

(いや、違うやつらもいるのか?どっちにしろやべー)

あんた、早く逃げろ!できるだけ遠く!みんなにも伝えてくれ!

村娘 :
あ、ありがとう!あなたも気をつけて!

セイヤ :
フッ……唸っても知らねーぜ?漆黒の灼腕が。

 :
3

セイヤ :
ぐはっ!

鬼 :
――――

セイヤ :
(なんてヤツらだよ。まるで歯が立たねえ)

鬼 :
――――

セイヤ :
――おい、足どけろ。この灼腕が火を吹く前になあ!

鬼 :
――――

セイヤ :
いーんだな? 後悔すんな――

よ?

……誰?

行冥 :
嗚呼、可哀想に、非力な者よ……早くこの場を離れるがいい……

セイヤ :
この場をって、あんた一人で……

実弥 :
おらおらおらァ、どけや鬼どもォ!

いい度胸じゃねェか、俺から逃げねェとはよォ!皆殺しにしてやらァ!!

セイヤ :
すっげ……

無一郎 :
どんな世界にいても迷惑かけるんだね。君たちは。

小芭内 :
そもそも鬼は大嫌いだ。この世の愚物。下種の極み。

おっちゃん :
あんたは確か……

??? :
お前はこの国の者だな。

おっちゃん :
ぐああああ!

??? :
反乱の罪により死刑を申し渡す。

炭治郎 :
大丈夫ですかっ! ケガは?

おっちゃん :
う、う……俺より、あんた、うしろ!

炭治郎 :
甘露寺さん!

蜜璃 :
ここは任せて。炭治郎君は逃げ遅れた人を!

炭治郎 :
はい!

蜜璃 :
あなたが本体かしら?この鬼たちの。

??? :
……答える義理はない。この国の者でないなら見逃す。

蜜璃 :
見逃してくれなくっていいわ。私そういうのってキュンとしないの。

??? :
そうか。では容赦はしない。

くっ……

蜜璃 :
あなた、ちょっとおイタが過ぎるわ。

??? :
……なるほど。侮っていた。

この場は退こう。しかし――[覚:・][え:・][た:・]。

蜜璃 :
(おぼ……?)

(えええ! 覚えられちゃったの?面と向かって言われたら怖いわ!忘れて欲しいわ!)

無一郎 :
(妙だな……こいつらじゃない。でもどこからか覚えのある気配……)

……あれは……

セイヤ :
……かっけー……黒い服のやつら……

天元 :
てめえ、ボーッとすんな。目立たねえよう、地味ーにさっさと避難しとけや。

セイヤ :
あ、ああ……

(あの人たちも……)

(やべー……ヒーローじゃねえか……)

半天狗 :
ヒィィィィィ

憎珀天 :
不快 不愉快 極まれり

あやつら……小さく弱き者を泣かせる極悪人共めらが……

だが……

玉壺 :
ヒョヒョヒョ。具現したばかりでは、私とてすぐには力が高まらぬか。

これも力大きい者の定め。その頸は預けておく。ヒョヒョッ。

それもまたいい……

 :
4

天元 :
もう鬼は片付いたみてーだな。瓦礫の陰に地味な気配もねえ。

小芭内 :
すぐに油断できる能天気さがうらやましい。俺はもっと範囲を広げて探すべきだと思うがね。

奴らがいたのは確実なのだろう?時透。

無一郎 :
二匹の内の片方は、刀鍛冶の里で戦った鬼でした。もう一匹は……

蜜璃 :
あ、特徴を聞いたけど、私が遭遇した上弦で間違いないです。

炭治郎 :
俺たちの世界の鬼……!

義勇 :
記憶からモノをつくる鬼も、こちらの世界にはいた。同じような力が相手にあるのかもしれない。

天元 :
なら、確かに放置は危ねえが……

行冥 :
しかしまだ暗く、我らも勝手がわからん……鬼の捜索は切り上げ、いまは善後策を話すのがよかろう……

蜜璃 :
ねえ、炭治郎君。さっきいっぱいいたのが、この世界の鬼ってことよね?

炭治郎 :
ええ、たぶんそうです。この世界の鬼も血鬼術みたいな異能を使うので……

実弥 :
その異能ってので、さっきの奴ァいっぱいいたってわけかよ。

小芭内 :
それだけと決まったわけではない。異能とやらが二つないとも限らない。

村長 :
もし、いいですかな。

しのぶ :
村の代表の方みたいです。お礼を言いたいということで。

村長 :
村長でございます。この度は危ないところを、本当にありがとうございました。

この規模の襲撃を受けて死者を出さずに済みましたのは、なんと言っても剣士さまたちのお陰で……

行冥 :
――我々はなすべきことをしたまで。

小芭内 :
それより村がこの有り様で、長々と礼など述べている時間はないように思うが?

村長 :
それは、おっしゃる通りで。しかしなぜ、なにもないこの村が襲われたか……

おっちゃん :
恨みだよ、恨み。国へのさぁ。あいてて……

村長 :
お前か。なんで言い切れる。

おっちゃん :
昔、王都で見たことあるんだよ。あいつぁジュクウで間違いねえ。

村長 :
ジュクウってジュクウか?まさかあの……

行冥 :
……お聞かせ願う。

実弥 :
悲鳴嶼さんよォ。反対はしねェが、俺たちも首つっこんでるヒマはねえと思うぜェ。

行冥 :
さればこそ。この事態の顛末が、我らが呼ばれた手掛かりになるやもしれぬ……

おっちゃん :
いまでこそ忘れ去られたけどな。ジュクウは宮廷に仕える王宮執事だったんだよ。

ウチの国は鬼への風当たりが強いけどな。でも評判はよかった。朴訥だけど忠実な鬼だってな。

しかしなあ。十年くらい前、この国に暴動があったんだ。鬼を排除するって過激な奴らの。

規模が大きくて暴動は王宮まで迫った。王族はみんな逃げたのに、ジュクウは宮殿で暴徒の前に立ちふさがってな。

そのときに討たれちまったって話だったんだが……

ま、王都の鬼嫌いの犠牲になったようなもんだ。

蜜璃 :
そう言えば、この国の者じゃなければ見逃すって言われたわ。

実弥 :
なら決まりだァ。

天元 :
――復讐ってわけか。なかなかド派手なマネしてくれるじゃねえか。

炭治郎 :
(個人の恨み……?)

(違和感がある……恨みの中に、悲しみの匂いがあったような……)

 :
5

キャトラ :
ルーンの調査に来てみたら……

どーいうことなのよ、これ!!

ルカ :
守るべきモノの気配がプンプンしますね!守護天使の血が騒ぎますよ~。気を引き締めてかかりませんと!

炭治郎 :
あ、キャトラ!キャトラじゃないか!

キャトラ :
え、え? 炭治郎? なんで?

アイリス :
こんな場所で……お久しぶりです。

キャトラ :
あ、まさか飛行島が恋しくなったのかしらん?

炭治郎 :
気がついたら呼ばれてるんだよ。今回も困ってるんだ。

アイリス :
また原因がわからないんですか?

キャトラ :
なら、今回はわからない者同士ね。

炭治郎 :
キャトラも?

キャトラ :
ええ。村の状況がさっぱりよ。ルーンの調査に来たらこれだもの。

アイリス :
ここは情報共有、ですね。

 :
…………

……

キャトラ :
なるへそねえ。

ま、村が鬼族に襲われたってのはわかったわ。アンタらの世界の鬼が混ざってたってことも。

小芭内 :
おい、冨岡。これはなんの冗談だ。なぜ猫がしゃべっている。

義勇 :
…………

…………

……わからん。

実弥 :
テメェ、ちょっと待てェ!

炭治郎 :
あ、あのですね! この世界の動物はしゃべるのも多くてですね!馬とかも! 義勇さんは理由がわからないって言いたいのかと!

キャトラ :
…………

……あっちだって鴉がしゃべるのにねえ?

アイリス :
もう、キャトラ。

キャトラ :
てへ。

……で、問題はアンタらが呼ばれた理由なんだけど……

炭治郎 :
うん。それがわかれば、帰る方法も探せると思うんだ。

キャトラ :
残念ながらまだ情報不足ね。でもキサラギと連絡とってあげるわ。

炭治郎 :
いいの?

キャトラ :
ええ。たぶんしばらくしたら帰れると思うわん。

炭治郎 :
ありがとう!助かるよ!

??? :
あれ? キャトラたちじゃん。ルカも。

ルカ :
セイヤさん!

セイヤ :
なんだよ、久しぶりじゃねーか。どうしたんだ、こんなとこまで。

ルカ :
それはこっちのセリフですよ。どうしました? 観光ですか?

セイヤ :
おう。遺跡で昔話に出てきたルーンが出土したって聞いてよ。

ルカ :
なんと!

実はわたしたち、ギルドからその調査隊として派遣されたんです! 偶然ですねえ!

セイヤ :
そっか。ならそいつは無駄足になっちまったな。

アイリス :
無駄足?

若者 :
盗まれてたんだ。そのルーン。

セイヤ :
遺跡も荒らされたって言うから、その片付けに回ってたんだけどな。ルーンだけが消えちまってんだよ。

キャトラ :
ちょっとアンタ!そのルーン、どんな感じだった?

若者 :
どんなって……ああ、写真あるよ。これ。

アイリス :
これは……

キャトラ :
間違いないわ。<[AC0D0D]鬼門のルーン[FFFFFF]>よ。

天元 :
<[AC0D0D]鬼門のルーン[FFFFFF]>ってのは、あの……

蜜璃 :
ちょっと待って。そもそもルーンってなにかしら?さっきから話によく出るけど。

アイリス :
ルーンとは……ざっくり言うと、いろんな力を秘めた石です。

蜜璃 :
力を秘めた……なんだか素敵な響きね!

アイリス :
こちらの世界では、すべての源と言っていいくらい欠かせないものです。特に<[AC0D0D]鬼門のルーン[FFFFFF]>は……

キャトラ :
鬼の力を増幅させるルーンよ!

小芭内 :
鬼の?

実弥 :
ってこたァ……

行冥 :
なるほど……つながったか……

セイヤ :
なんのことだ?

天元 :
派手に頭の回転が悪い野郎だな。要するにジュクウってやつがそれを盗み出したってこった。

小芭内 :
この村を襲った理由がそれだろう。力を蓄えた先にある本当の狙いは自分が痛い目を見た王都だろうが。

義勇 :
やはり復讐か……こちらも王都に向かうか?

しのぶ :
でもこの村も安全とは言えませんし……

実弥 :
ジュクウってのが次にいつ来るかわかればなァ……

小芭内 :
恨みのセンなら次の行動も早いだろう。

炭治郎 :
あ、でも! 襲われたときに、ケガしたジュクウを見たっていうお医者さんいましたよね?

蜜璃 :
うん。あのケガで動けるようになるには、そのルーンっていうので治療しても早くて十日かかるって。

無一郎 :
じゃあ猶予はその十日だね。でも玉壺たちの謎はまだ解けてない。

しのぶ :
そちらは常に危険ですね……

村長 :
あの、旅の剣士さま方……もしかしてこちらの助けとなって頂けるのでしょうか?

行冥 :
元より鬼殺隊はそれが役目。また我らの世界の鬼に悪事を働かせるわけにはいくまい……

実弥 :
猫のお陰で、帰るのもなんとかなりそうだしなァ。

村長 :
おお……感謝いたします……

小芭内 :
だがどうする。悠長にかまえる状況でもない。

行冥 :
…………

……提案がある……

 :
6

行冥 :
では、行ってくる。あとをよろしく頼む……

村長 :
案内なしで大丈夫でしょうか?鍛冶師の家がある山まで十日はかかりますが……

行冥 :
問題ない……話に聞いた行程なら三日で着くだろう……

実弥 :
しっかりやっとけよォ。俺らそのまま王都に行くからなァ。

小芭内 :
……励むことだ。

村長 :
……風のように……!

ルカ :
もうあんなに遠くに見えますね~。

セイヤ :
すげえスピード……

キャトラ :
三手にわけるの? アタシたちも?

行冥 :
そうだ……脅威が複数に及ぶ以上、戦力の集中は下策……この世界の者の手も借りたい……

小芭内 :
具体的にはどんな組わけに?

行冥 :
念仏を唱えている最中に[喚:よ]ばれ、私は武器を持ち込めなかった……故に私と共に武器を調達し、王都に向かう組。

先に王都に向かい警戒する組、村に残り復興と警戒をする組だ……

キャトラ :
それじゃあそろそろ王都組も出発しようかしら。

ルカ :
キャトラさんたちも行くんですね。ちょっと寂しいです。

義勇 :
キャトラがいれば、王への謁見が楽に済むらしい。少し借りる。

しのぶ :
私は念のために、別の道でまわりますね。鬼がいないか確認していきます。

天元 :
じゃ、俺らもぼちぼち始めっか。まずは地味に後片付けだな。

蜜璃 :
ふふ。みんなの役に立てるなんて素敵。

無一郎 :
僕は東の方からやってくよ。怪我人が多いから。

炭治郎 :
あ、俺も手伝うよ、時透君!

セイヤ :
じゃあ俺も……

天元 :
お前はこっちだ。

ふん。地味にマシな体力はありそうだな。

セイヤ :
フッ――灼腕に秘められた力に気づくとは見事。これでも毎日、筋トレを……

天元 :
よし、俺と来い。鬼がいないか見回りだ。

セイヤ :
おっ。俺の実力を見込んでってことか? そうだろ?

天元 :
まあな。

セイヤ :
へへっ。見る目あるな!

天元 :
(いざってとき派手に戦うからな)

 :
7

行冥 :
村長の話によるとこの家のはずだが……

実弥 :
――すげェ山奥じゃねェか。

小芭内 :
山の奥地で密かにジュクウとつながっているのかもしれん。なにかしらの企みを疑った方がいい。

??? :
誰だ、こんな場所まで……

実弥 :
テメェが鍛冶師のテンカイかァ?

テンカイ :
そうだが。こちらは剣士に用はないが。

行冥 :
我らキドラ村の村長より紹介を受けて参った者……いきなりの訪問、許されよ……

テンカイ :
ほう、キドラの……

……ジュクウが……! 村を……?

小芭内 :
このままだと次は王都だ。順番の理屈は理解できるか?

行冥 :
ついては武器を所望したい……島一番の鍛冶師と聞いた。

テンカイ :
そうか。あいつがとうとう……

実弥 :
知ってんのかよォ、ジュクウって野郎。

行冥 :
こちらは情報が不足している。聞かせてもらえたらありがたい……

テンカイ :
……ワシはかつて宮廷お抱えの鍛冶師でな。ジュクウの武器も手がけたことがあった。

そうか……ジュクウが……

小芭内 :
……知り合いなら話が早いな。

たとえかつての知り合いでも、まさか人を襲うようになった鬼に肩入れはしないだろう。弱点があれば教えてもらおうか。

テンカイ :
……ジュクウを売れと?

実弥 :
なんだァ? 同情かァ?

テンカイ :
……かもしれん。

実弥 :
テメェ……!ほっときゃ人が死ぬんだぜェ!わかってんのかよォ!

テンカイ :
わかっている…………もっとも、ワシとてつぶさにあの男を知るわけではないが。

あいつは元は王宮執事でな。実直でウマが合った。

あんたら、見たとこヨソ者だな。十年前の暴動の顛末は聞いたか?

実弥 :
その暴動でジュクウが死んだと思われてたんだろうがァ。鬼排除派に殺られてよォ。

テンカイ :
そうだ。ジュクウだけでなく、お付きの王妃も、王宮でな。

小芭内 :
その姫とやらも鬼だったのか?

テンカイ :
ああ。鬼の国の姫の[輿入:こしい]れに、ジュクウが供として侍ってきた形だった。

あのときは人と鬼の関係が雪解けすると期待したが。結果は散々だったな。人の業とは深いモンだ。

小芭内 :
暴動で王はどうなった。

テンカイ :
……まあ、王も生きておる。いまは人の女を妃にしておるよ。

行冥 :
ジュクウについても聞きたい……その鬼の戦い方などご存知か?

テンカイ :
肩書は執事だが、強かったようだ。ワシに詳しくはわからんが、右を向かせて左を攻めるような卒のない戦い方らしい。

行冥 :
伝聞も一つの情報……ありがたく頂戴する……

テンカイ :
そうかい。だがワシはあの暴動で引退した。いまは農具を扱うジジイに過ぎん。

行冥 :
…………

 :
…………

……

テンカイ :
――が、王都には孫もいる。

ジュクウもワシの孫を手にかけるのは望まんだろう。これがワシにしてやれる精一杯だ。

実弥 :
こいつァ……

小芭内 :
かなりの武器だな。数もある。細工をしていないか調べる必要はあるがね。

テンカイ :
みんな昔つくったものだ。そんなガラクタでよけりゃ好きに使え。

行冥 :
……[良:よ]いのだな?

テンカイ :
なにがだ。

行冥 :
ここにあるいずれかの武器で、ジュクウを討つことになるかもしれん。

テンカイ :
――これからどんな道をたどろうとも、もうあいつに幸せな結末は訪れん。

ここの武器がどんな結果をもたらしても、それは運命だろう。

小芭内 :
確かにな。

肉親や知り合いが鬼になった連中を俺たちは山ほど見てきた。お前にとってのジュクウとやらも似た例だろう。

実弥 :
だから安心しなァ。こいつを俺らに預けた気持ちは汲んでやるぜェ。

ギッタギタに刻んでなァ。

 :
8

セイヤ :
ちーす。

ルカ :
あ、セイヤさんお帰りなさい。見回りどーでした?

セイヤ :
んー、魔物が少しいたくらいだな。宇髄さんが睨んだらどっか行ったよ。

ルカ :
いるだけで迫力ですからね~、あの人。

おばちゃん :
はい、いらっしゃい、セイヤ君。ご注文は?

セイヤ :
焼き魚定食。なあ、おっちゃんの具合どう?

おばちゃん :
いや~。まだよくなんないねえ。だいぶ重症だったみたいでさ。

セイヤ :
そっか。じゃ食い終わったら店、手伝うよ。

おばちゃん :
いっつも悪いねえ。ウチのが情けないばっかりに。

セイヤ :
いいってことよ。

ルカ :
セイヤさん、この店のお手伝いしてらっしゃるんですか?

セイヤ :
ん、ああ。鬼の襲撃でおっちゃんケガしちまったからな。

ルカ :
……やっぱり優しいですねえ、セイヤさん。

セイヤ :
優しいっつーか……

……俺に力があれば……おっちゃんも村も守れたかもって思ったら、手伝いくらいしないとしんどくてさ……

ルカ :
セイヤさん……

セイヤ :
さすがにへこむよな。あんな好き放題やられたら……

ルカ :
…………

……わたし、人には巡り合わせがあると思うんです。

セイヤ :
巡り合わせ……?

ルカ :
ええ。この村を守れなかったのは、わたしもセイヤさんも同じですよ。わたしも守護天使の端くれです。間に合っていたらって思います。

でも、しょうがないことを悔やんでいてもはじまりません!大事なのは次、どうするか!それじゃないでしょうか!

セイヤ :
そう言われたらそんな気がしてきた。

ルカ :
わたしはやったりますよ。次があれば絶対に!

この村を守ったらーーーーい!!

セイヤ :
おう! 俺もやったるぜ!

 :
…………

……

炭治郎 :
それなら宇髄さんに稽古つけてもらったらどうかな。

セイヤ :
宇髄さんに?

ルカ :
稽古、ですか?

炭治郎 :
宇髄さんは元柱だからね。体力向上とか、そういう知識がすごいと思う。

セイヤ :
確かに。次が大事っつっても、いまのままじゃ同じだもんな。

筋トレなら毎日してるし、ここらでレベル上げるのもいいかもしれねー。

炭治郎 :
それなら、相談してみよう!力は自分で鍛えて身に着けないと。

セイヤ :
桎梏された我がソウルを解き放て、かつて柱だった者よ……さすれば覚醒せしこの灼腕、村の運命を切り開く鍵となろう!

天元 :
何言ってんだお前…気持ち悪い奴だな

炭治郎 :
宇髄さんに稽古をつけてほしいそうです。村を守れるように。

ルカ :
わたしにもお願いします!いつなにが起きても、みなさんを守れるようにしたいんです!

天元 :
ふーん、稽古ね……

――別にいいぜ。

ルカ :
ありがとうございます!

セイヤ :
よっしゃ、気合い入ってきたぜ!

ルカ :
燃えてきますねえ!

天元 :
ま、竈門の頼みだし、お前ら少しは見どころもありそうだしな。ただし……

ド派手にいくぜ。覚悟しときな。

 :
9

セイヤ :
ひっ……ひっ……ひっ……

ちょっと……ぜひぃ……これ……ぜひぃ……もう……

天元 :
遅い遅い遅い遅い

セイヤ :
ヒィィ!

天元 :
何してんのお前意味わからねぇんだけど!!

セイヤ :
いや、だってもう限界だって!休憩させてマジ……

いってえええ!

天元 :
お前よお……

まず基礎体力が無さすぎるわ!!走るとかいう単純なことがさ

こんなに遅かったら村を守るなんて夢のまた夢よ!?

おら行け、走れ。よしと言うまで!

セイヤ :
んな、こと、言われ、ても……

天元 :
ハイハイハイ地面舐めなくていいから

セイヤ :
舐めたくて舐めてるわけじゃねえ……

天元 :
まだ休憩じゃねぇんだよもう一本走れ

セイヤ :
いって、チクショー!

ルカ :
お、セイヤさんもがんばってますねっ!

セイヤ :
え、ルカ……お前なんでうしろから……?

ルカ :
わたし脚力には自信ありますので。セイヤさんより一周多く回っております!

セイヤ :
つまり俺は周回遅れ……?

ルカ :
遅れているのがなんですか!立ち上がって進むことが大切です!

セイヤ :
いや、そうかもしれねーけど……

ルカ :
では! わたしはもう一周いってきますので!

天元 :
オラァ!お前はいつまで地味に寝てんだよ!

セイヤ :
いてええ!

 :
…………

……

セイヤ :
ふひゅー……ふひゅー……

蜜璃 :
あ、セイヤ君だ。

炭治郎 :
本当だ。でも顔色……

蜜璃 :
おーーーい! がんばってるーー?

セイヤ :
ふひゅるるる……ひゅるるるる……

蜜璃 :
(む、無視された……私、柱なのに〜!)

炭治郎 :
もう返事する余裕もなさそうですね……

セイヤ :
はあー、はあー、はあー……

(もう、ダメだ……俺はこんな場所でなにを……)

(あ、そうだ。特訓だよ、特訓……あれ、でも特訓ってこんな死の危険を感じるもんか……?確かにマンガじゃこんな感じ……)

(ヤバいヤバい。意識が……)

(なにか……見える……なにかが……)

天元 :
勝手に走馬灯見てんじゃねえ!

セイヤ :
イイイイイ!

天元 :
休憩は永遠にまだだよ!走れ走れ!

ルカ :
(がんばってますね、セイヤさん。楽しそうでいい感じです!)

 :
10

王 :
そなたらが飛行島の冒険家か。

キャトラ :
そうよ。アタシはキャトラ。こっちがアイリスと義勇よ。

アイリス :
謁見の申し出、すぐに受理してくださり感謝します。

王 :
飛行島の冒険家と聞けば、すぐに応じねばならん。しかし……

こちらへの用向きに見当がつかん。見てのとおり平和な国でな。

アイリス :
やっぱり、まだ報告が届いてないのですね……

キドラ村が襲われました。

王 :
キドラが……?

信じられん。言ってはなんだが、あんな辺境の地をどうして……?

アイリス :
目的は遺跡から出土したルーンと思われます。

キャトラ :
<[AC0D0D]鬼門のルーン[FFFFFF]>よ。鬼の力を増幅させる作用があるわ。

王 :
ということは、犯人は鬼族……?島に入り込んだのか?

義勇 :
ジュクウ、という名だそうだ。

王 :
……ジュクウ、だと……?

側近 :
国民ももう忘れていた忌事が。過去から邪魔者が一人……!

義勇&アイリス :
…………

アイリス :
やはり心当たりが有るんですね?

王 :
……ああ。まさか生きていたとは。

義勇 :
異能は分裂。間違いないか?

王 :
確かそうだったはずだ。

アイリス :
村は死者こそ出ませんでしたが、その異能で壊滅的な損害を受けています。

キャトラ :
放っておけば、次は王都がそうなるわ。村のお医者さんの見立てじゃ、あと七日くらい。

王 :
相手がジュクウであれば、そうであろうな……

……よくぞ知らせてくれた、飛行島の冒険家たち。

王都にはすぐに[戒厳令:かいげんれい]を敷く!軍は措置を講じるように!

 :
…………

……

しのぶ :
お待たせしました。アイリスさんは?

義勇 :
別の場所を見回りにいった。そっちはどうだった。

しのぶ :
どの道もまだ鬼の気配はありません。この街は人の気配もないようですけど。

義勇 :
王が戒厳令を敷いた。

しのぶ :
街が死んじゃったみたいですね。

義勇 :
だがこちらの方が守りやすい。

しのぶ :
まずはこの街の地形を頭にいれないと。

義勇 :
すぐに軍の[哨戒:しょうかい]もはじまるだろう。

しのぶ :
勝手に動けるいまの間に、済ませましょうか。

ジュクウ :
王都に伝わったか……

(あの剣士ら……予定にはなかったが……)

(まあいい。傷は間もなく癒える。<[AC0D0D]鬼門のルーン[FFFFFF]>で増した力も安定してきた。次こそ姫の無念を……)

姫……

また……別世界から[喚:よ]び寄せましたな、姫。外遊へ出発するお時間ですぞ。

姫 :
蝶くらいよかろう。なあ、昔のように共に追ってみぬか。

ジュクウ :
追いませんし感心しません。誤って異界の魔物を喚んだらなんとします。

姫 :
相変わらずお固い執事じゃの。そもそも、わらわの異能で喚べるものなど、蝶くらいであろうが。

あ、たまに石も出るな。昨日のはキレイだから首飾りにしたぞ。

ジュクウ :
まったく……

別世界でも記憶からでもモノを召喚できる、使い方を誤れば危険な異能です。お控えを。

姫 :
買いかぶりすぎよ。それに――

もし魔物を喚んでも、お前が守ってくれるであろう?

ジュクウ :
ふ……努力はいたしましょう。それより外遊のお支度を。

姫 :
うるさい執事じゃのう、もう……

ジュクウ :
(あの者たちを喚んだのは……姫の力でしょうか。異なる世界と……何者かの記憶から)

(……もしくは姫の願いか)

しかし、私はもう自分を止められません……

 :
11

義勇 :
(王都には軍がいる。鬼も易々とは踏み込めないだろう)

(奴が機会をうかがうとすれば、王都を睨むこの森辺りが適当なはずだが……)

しのぶ :
あら、冨岡さん。

義勇 :
……そっちも鬼はいなかったか。

しのぶ :
ええ。そろそろ別の場所を探した方がいいかもしれません。

義勇 :
…………

子供の声 :
うわぁあああああああ!

子供 :
ひいい……

??? :
ひひひ……

鬼 :
楽しく逃げ回ってくれたなあ、お嬢ちゃん。

けど鬼ごっこは終わりだぁ。人はキドラ様の邪魔になるから――

――なっ!

しのぶ :
もう大丈夫ですよ。そこに隠れていてもらえますか?

子供 :
う、うん……あの、ありがとう!

義勇 :
島に鬼はいないようなことを言っていたが……

鬼 :
そうかい。でもここにいるぜえ。

キドラ様の敷く覇道に人間はいらねえんだよぉ!

義勇 :
キドラ……?

しのぶ :
あの村の名ですね。英雄と謳われた鬼の名前から取ったらしいですが……

義勇 :
いないはずの鬼に、キドラの名か……

しのぶ :
嫌な予感がしますね……

鬼 :
なァにブツブツ言ってやがる!覚悟はできたのかァ?

義勇 :
――来るぞ。

しのぶ :
わかってます。

 :
12

鬼 :
おらおらおら、どうしたァ!

避けてるばっかじゃ、俺にゃあ勝てねェぜェ!ぎゃはははは!

義勇 :
…………

鬼 :
ぐっ……テメェ……

義勇 :
もういい。わかった。

鬼 :
ああ?

義勇 :
力はあるがそれだけだ。村を襲った鬼ほど鍛えられていない。

鬼 :
テメェ……

なに言ってっかわかんねェよっ!

義勇 :
水の呼吸 [肆ノ型:しのかた]

打ち潮

お前が理解する必要はない。

しのぶ :
わぁ。あちらは勝負がついたみたいですよ。

鬼 :
くっ!

しのぶ :
やっぱり、仲良くはできないんですねえ。

鬼 :
うるせェうるせェ!てめェなんざ俺が……!

しのぶ :
蟲の呼吸 蝶ノ舞 “戯れ”

鬼 :
ぐうっ!

(速え……でも傷は浅……)

うごぉぉ……

しのぶ :
傷は浅くても、安心してはダメですよ。私のように毒を使う剣士もいますから。

義勇 :
終わったか。

しのぶ :
ええ。ですが良くないですね。他にもいるかもしれません。ここだけではなく、村やほかの場所にも……

義勇 :
ああ。また脅威が増えた。ジュクウとその分裂体だけでも厄介だが……

しのぶ :
原因は不明ですが、たぶん私たちがここへ来た力と無関係ではないでしょうね。

義勇 :
キドラ、か……

しのぶ :
念のため、村に手紙を送りましょう。

義勇 :
間に合えばいいが……

 :
…………

……

半天狗 :
ヒィィィィィ

憎珀天 :
そろそろ、力が戻るか……

質の良い肉を喰らい、さらなる力を身に付ける。

増した力であの方のお役に立つ。それぞ我が使命の気がする……

玉壺 :
ヒョヒョヒョ……芸術の香りがする。あの都……

力さえ安定すれば、かつてない作品がつくれる気がする……

今度はどれだけの者を感動させられるか……

この焦れる高揚感……待つしかないのも、またいい……

 :
…………

……

??? :
うむ! よもやよもやだ!

どこまで行こうと、まったくわからん!

杏寿郎 :
ここは、どこだ!

不穏な気配は、たっぷり漂うがな!

 :
13

天元 :
…………

――ド派手に来たな。

炭治郎 :
来ました!

セイヤ :
ふえ……来た?

ルカ :
むにゃ……握り飯が来た……

炭治郎 :
出前じゃなくて鬼です!たくさんの鬼の匂いがします!

天元 :
いまどの辺りだ、竈門。

炭治郎 :
まだ遠いです。いまなら迎え撃てます!

天元 :
よぉし!お前らもいけるな?

セイヤ :
フッ……我が漆黒の灼腕は夜の闇でより輝きを増すだろう。

ルカ :
腕が鳴りますよ~。今度こそ村はわたしが守ったらーーい!

天元 :
(前の襲撃から四日か……村にこれ以上の被害は出せねえ)

無一郎 :
で、確かなの? 炭治郎。

炭治郎 :
うん。ジュクウの匂いじゃない。それよりはもっと……殺気だった鬼の匂い。

無一郎 :
玉壺たちもいたから……他にいても不思議はないね。

蜜璃 :
ジュクウだけでも大変なのに……

セイヤ :
村の人は?

ルカ :
いま、避難しています。宇髄さんが付いてるので心配いりません!

無一郎 :
じゃ、こっちは鬼だけに集中だね。敵は遺跡の方からでいい?

炭治郎 :
うん。まっすぐこっちに向かってる。

ルカ :
では、宇髄さんの立てた作戦が使えます!

セイヤ :
作戦ってなんだっけ。

ルカ :
稽古のあとは毎日、燃え尽きてましたもんねえ。

炭治郎 :
えっと、向こうに狭い道があるのが見える?二つの岩に挟まれたところ。

あそこで鬼たちを迎え撃つんだ。大勢を相手にするなら、狭い場所がいいって宇髄さんが。

セイヤ :
……でも、岩って三つねーか?すげーデカいのが一個。

ルカ :
三つ?

無一郎 :
……一つの岩はだいぶ向こうでうごめいてるね。

炭治郎 :
まさか……

蜜璃 :
あの塊が、全部鬼だわ。

セイヤ :
マジかよ……

無一郎 :
……そろそろ行こうか。間に合わなくなる。

炭治郎 :
うん。……じゃあセイヤたちはここで待ってて。

無一郎 :
餅は餅屋って言うからね。

炭治郎 :
あんな数が相手じゃ、無茶な戦いになるかもしれない。鬼との闘いなら、俺たちの方が慣れてるから。

ここは俺たちに任せておいて。

セイヤ :
…………

(正直、メチャクチャこえー……こえーけど……)

炭治郎……

……お前のそのセリフは、俺が言ってみたかったやつなんだよ。

炭治郎 :
セイヤ……?

セイヤ :
闇に希望の炎を灯すのはこの灼腕……

お前らだけにいいカッコさせねーからな!

キドラ村を守んのは、このホーリー・ザ・ナイト!漆黒の灼腕を持つ獣だっ!

炭治郎 :
……君もカッコいいよ。

無一郎 :
じゃ、みんなで行こうか。死にそうだったら逃げてね。

ルカ :
よっしゃ!やったりましょう!

蜜璃 :
よーし。頑張るぞォ!

 :
14

炭治郎 :
でやぁああああ!

はぁっ! はぁっ!セイヤ! そっちは?

セイヤ :
はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ……

け、稽古に、比べりゃ、なんてことねー……楽勝だぜ、楽勝……

無一郎 :
油断はダメだよ。

この鬼たちは卑劣な手でも、平気で使うみたいだから。

セイヤ :
すげ……

つーか、限界……

ルカ :
どぉりゃああああああ!

うっし!鬼、こちらにはもういません!

蜜璃 :
こっちも。取りこぼしもいないみたい。

炭治郎 :
もう?

無一郎 :
変だね。

炭治郎 :
うん。匂いではもっとたくさんいたような……

蜜璃 :
でも気配そのものを感じないわ。

ルカ :
どこかへ消えた、ってことですか……?

炭治郎 :
…………

 :
…………

……

杏寿郎 :
うむ! なるほど!

俺に同じ気配を感じて、どこからか流れてきたか!

??? :
へっ。仲間かと思って来てみりゃ、人間が一体とはなあ。俺が来るまでもなかったかぁ?

鬼 :
殺して首を見せしめにしましょうぜ、キドラ様!

杏寿郎 :
そうか! 悪いがそれは叶わない!

鬼 :
ああ?

杏寿郎 :
君たちはここで終わるからだ!ただ礼を言おう!

俺はいますべきことを理解した!

自分の責務を全うする場所は、ここをおいて他にない!君たちはどこにも行かせん!

キドラ :
な、なんだこいつっ!

杏寿郎 :
俺に引き寄せられた君たちの嗅覚はおそらく正しい!

俺にはわかるっ! 俺と君たちは同じように何かからつくられた記憶の塊だ! だがっ!

君たちは、ただつくられた!

鬼 :
ちいっ!なんだこいつの強さ……!

があっ!

杏寿郎 :
俺は違う!胸の内に燃え上がるこの闘志!使命感! 心の強さ!

確信がある! 俺は正しい道を進む誰かの想いからできている!

キドラ :
ひ……

杏寿郎 :
ここで最後だ。覚悟はいいか。

キドラ :
く、くんな! くるんじゃねえ!

杏寿郎 :
すまない! それはできない!

炎の呼吸 壱ノ型

[不知火:しらぬい]

キドラ :
あ、あ……

杏寿郎 :
――うむ。俺もここまでか。

これで責務は全うした!

俺を作った誰かよ。心を燃やせ。

――自分が正しいと思う道を、進んでくれ。